■心と思いを守る道:本来性の回復

認知症が進み、会話ができなくなり、自力では立てなくなった83歳の妻を介護している82歳の男性の話が新聞に載っていました(読売新聞朝刊2015年5月18日[医療ルネサンス]認知症と家族<5>「ありがとう」褒める大切さ)。数ヶ月前に自分が膀胱癌の手術を受けた80歳を過ぎた夫にとって、夜、トイレに立つ妻を抱え、おしりを拭いてあげるのが、容易い作業ではないことは想像に難くありません。

ところが、2012年に、国立長寿医療研究センター(愛知県)の「家族教室」で指導を受けるようになり、「褒めてあげる大切さ」を教わってから介護の態度が変わったのだそうです。以来、失禁しても叱らない。手をたたき、喜びを全開させて、「出てくれて、ありがとう」。入れ歯が外せると、「ありがとう」。自分でスプーンを持てると、「ありがとう」。

そうしているうちに、妻に合う介護方法が分かってきたのだそうです。彼は言いました。「介護は作業ではない。苦しみでもない。生涯の仕事だ。一日でも長く妻と生きたい。」