その11 対話型聖書学び会

聞いて、実行して、分かちあう

夏休みのある日、6人の学生たちが昼間から一緒に遊んでいました。夕方になったとき、自分たちで聖書を学ぶことにしました。選んだ箇所はローマ人への手紙第6章でした。

輪読した後、聖書から学んだことを互いに分かちあうことになりました。しかしそこには耳新しい言葉が並んでいました。しばらくの沈黙の後、1人の高校生が口を開きました。

「ここに出てくる古い人とか新しい人とか、どういう意味なのかなあ。」

またしばらく沈黙が続きました。すると、進行役の男の子が、その日起こった出来事を思いだしました。

「昼間、ケンちゃんと一郎が喧嘩したでしょ。そのときケンちゃんが、『もう、僕のことは放っておいてくれ!』って言ったよね。古い人っていうのは、イエス様がいろいろ語りかけてくださっても『放っておいてくれ!』って言う人のことじゃないかな。それで、新しい人っていうのは、ケンちゃんが後で仲直りしたように、イエス様に謝って、『よろしくお願いします』って言う人のことだと思ったんだけど。どうかなあ。」

それを聞いていた5人の学生たちは、「そうか、そういう意味だったんだよね」と言って頷きあいました。

 

もし、このグループに神学教育を受けた大人が混じっていたなら、和解、義認、新生、聖化などという専門用語を駆使して一通りの説明をしていたかもしれません。

しかし彼らは、自分たちの経験と用語で聖書を解釈しました。それがこの学び会のポイントです。「小さな群れよ。恐れることはありません。」(ルカ12:32)と語りかけられる方に信頼してお任せするときに、ダイナミックなことが起こります。主イエス以上の教師はおられないからです。

キリストに従って日常を生きるために必要な事柄は、誰でも直接聖書から学ぶことができます。確かに難解な箇所もあるでしょうが、それらの多くは、神学者たちが長年議論しても一致した理解に至っていないのが現状です。しかしおそらく聖書の98パーセントは、真理を求める態度で読むなら、神学者ならずとも、そこから神の御心を理解することができるのだと思います。私は神学者たちの労を多とする者ですが、世界の弟子化にとって最も重要な課題は、普通の人が読んで理解できた内容をどれだけ実行に移しているのか、という点なのです。

すべての信者は祭司なので、「互いに教え、互いに戒め」(コロサイ3:16)ることができます。たとえ専門家がいなくても、一人ひとりの日常生活を反映した率直な対話を通して聖書を立体的に学ぶことができるのです。また、同じような問題を抱えた人が御言葉に従った結果どう変えられたかという「生活に根ざした証」は、他の参加者への励ましとなります。

 

対話型聖書学び会の手順

それでは、「対話型聖書学び会」の手順についてご説明しましょう。様々なやり方がありますが、今私が気に入っている方法をご紹介します。

まず、司会者が1人必要です。司会は当番制にして、皆が順番に担当します。

その日の司会者は、予め3-10節ぐらいの聖書箇所を選んでおきます。そして最初に誰かを指名して、次の3つのことについて祈ってもらいます。

① これから読む聖書箇所を通して神の声を聞くことができるように。

② 聞いたことを実行できるように。

③ 教えられたこと決意したことを他者に分かちあうことができるように。

 

次に、聖書箇所を皆で黙読するか、誰かに朗読するかしてもらいます。その後、数分間黙想します。「読んだ後、黙想する」というパターンを数回繰り返します。そして2回目か3回目の黙想に入る前に、「この後、2人組になりますが、そのときに分かちあうことを1つ決めてください。」と告知しておきます。

 

最後の黙想が終わったら2人組になり、

①何を学んだか、

②どう実行するか、

③学び会の後に誰にどのように分かちあうか

―の3点を互いのパートナーに説明します。実際に2人組になる前には、「パートナーが話したことを後でみんなの前で言ってもらいますので、よく聞いて覚えておいてください」と言っておきます。そして分かち合いが終わる頃を見計らって、「『あなたが先ほどおっしゃたことはこういうことでしたよね』と相手の言葉を要約して話し、話した本人から内容を確認してください。」と指示します。

 

それぞれ2人組で分かちあった後、パートナーが話した内容をみんなの前で順番に分かちあうようにします。そして全員が終わった後に自由に討議をします。討議する内容は3つあります。

① 自分が導かれたことと同じことを発言した人がいたので御心を確認できた。

② 自分が気づかなかったことを発言する人がいたので教えられた。

③ このグループ全体に対して神様が語っていることがあるような気がする。

 

最後に、再び2人組に戻って、学んだことを実行できるように互いに祈りあいます。

回心直後の人でも、定期的に学び会に参加し始めさえすれば、ほどなく司会ができるようになります。難解な質問をする人がいても、司会者は「会話が円滑に進むための交通整理係」だと割り切って、自分で答えないで誰かに振るのがよいでしょう。司会者であれ誰であれ、支配的になると、相互に学びあう機会を奪ってしまいます。

また、その場で答える人がいない場合は、次回までに調べてくる人を決めておけばよいのです。新しい知識を蓄積することではなく、各自が聖書から神ご自身に教えられ(=天)、神に従って世界に出ていくことができるように(=外)、互いに励ましあう(=内)ことが、この学び会の目標です。

 

実践した人にだけ次を教える

ここまで、①デボーション、②天外内組、③夫婦の日課、④個人伝道、⑤金銭管理、⑥対話型聖書学び会―の6つのスキルについて解説してきました。天外内トレーニングは、実は「2階建て」になっていて、これら6つのスキルのうちの5つを実践した人を対象に、2階部分のトレーニングをすることになっています。天外内組と夫婦の日課は、どちらかを選ぶことができます。もちろん、両方行っても結構です。

1階部分の教えは、「人としてどう生きるのか?」という問いに答えるものですが、2階部分の教えは、「人をどう育てるのか?」という課題を扱います。実際のトレーニングでは、2階部分の教材は1階部分の課題をこなした人にしかお見せしないのですが、この連載では、全体像をご理解いただくために階段を途中まで上っていただいて2階の様子を少し見ていただくことにいたしましょう。

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