その15 リーダー育成とコーチング

ベンガルボダイジュとバナナ

ある町に有名な説教者が住んでいました。日曜の礼拝はいつも満員御礼状態でした。遠くから彼の「生」説教を聞くために聴衆が押し寄せたからです。

ところが彼が死んだ後、その教会は閉鎖されました。働きを受け継ぐ人がいなかったからです。他の追随を許さないほどに優れた働き人は、その人自身が神の賜物です。しかし、その人がいなくなった後、その働きがどう継続されるかという点が考慮されないと、一時的な現象で終わってしまいます。

ポール・ヒーバートは、「ベンガルボダイジュとバナナ」という二種類の植物を引きあいに出して、「リーダーを育てるリーダー」を育成することの重要性を指摘しました 。

日本でも観葉樹として人気の高いベンガルボダイジュは、原産地のインドでは、高さ30メートルにも達する巨木に成長します。この木の下で、人も鳥も動物も暑さをしのぐことができます。

しかし、「ベンガルボダイジュの下には何も育たない」というがあるほど、この木の下には何の植物も育ちません。枯れた跡には1エーカーにも及ぶ「何も生えていない巨大な空き地」ができるそうです。

それとは対照的に、バナナは別の意味で生命力豊かな植物です。もちろん、ベンガルボダイジュのような立派な幹や、張り巡らされた枝はありません。寿命も1年半にしか過ぎません。

しかし、6ヵ月毎に新しい芽が生え出て、実を成らせていきます。そのため、年間を通じて開花結実し、そのサイクルは次々に受け継がれ、みるみるうちにバナナの森ができるそうです。

ヒーバートは、多くのリーダーをベンガルボダイジュにたとえます。ベンガルボダイジュ型のリーダーが素晴らしい働きをしても、後継者を見つけることは困難です。なぜなら彼らは、リーダーではなくフォロワーを生み出すからです。

フォロワーというのは、リーダーの思考を推し量り、その指示に従う人たちです。フォロワーはリーダーの話を喜んで聞くので、リーダーも自分のプライドを満足させることができます。

リーダーは、フォロワーが学ぶべきこと、そして学ぶ方法について決定します。そして、リーダーが作ったプログラムの一翼を担うことができるように配置します。フォロワーは比較的短時間で育てることができます。しかも、それはそれなりの効果を生みます。

ところが、リーダーが去っていくとき、そこには依存的な「指示待ち族」だけが残ることになります。このようなリーダーシップスタイルは、次世代リーダーの潜在的な自律の芽を摘み取り、人々の成長を妨げてしまいます。

フォロワーではなくリーダーを育成することは、自尊心を満たすという観点から考えると、報いの少ない仕事だと言えるでしょう。しかしリーダーを育てようと思うなら、育成者の考え方や表面的なライフスタイルをコピーさせてはなりません。神との直接的な会話を通して、自分で考え、自分で決めることができるように助ける必要があります。

そのようにして、育成者の信念に対して疑念を抱き、その決定に異議を唱える力を身につけさせるのです。そうするならば、やがて彼らが仕事を引き継ぐときに、育成者の限界を乗り越えていくことができます。また、前の世代から引き継いだ恵みの土台の上に、新たな時代の新たな地平を切り開くことができるのです。

たとえ、若い人たちが粗削りであっても、物事を単純化し過ぎていても、それらを神経質に正そうとしないで、むしろ続けて自分の頭で考えるようにと、励まし続けなければなりません。

また、虎の巻に頼らないで、「自分の責任で解決すべき問題」が何であるかを自覚し、そこに注意を向けられるように助けなければなりません。

このような育成には時間と労力がかかります。対話しながら、失敗から学ぶ機会を提供しながら、自律性を尊重して育てるからです。

しかし、このように育てられたリーダーたちは、多くの日の後に自分の能力を発見し、自ら新しい責任を引き受けるようになります。そして育成者は、自分を踏み越えていく若いリーダーたちに囲まれるようになります。それが育てる者にとっての報いです。

 

コーチング

自律的に判断し、自発的に行動するリーダーを育てるためには、経験豊富な年長者が、年少者や初心者に対して知識や経験やノウハウを分かちあう「助言を伴う指導」とは異なる育成の枠組みが求められます。

被育成者が神から直接導きを受け取って能動的に行動を起こすことを傍らに立って助ける育成のスキルを「コーチング」と呼びます。コーチは、被育成者の話に耳を傾け、質問を投げ掛け、励まし、チャレンジします。コーチングは、被育成者と神との間に交わされる人格的な対話のプロセスを助けるための、もう1つの人格的な対話です。

イエス様は偉大なコーチでした。「あなたは、生ける神の御子キリストです。」(マタイ16:16 )という告白は、教会の土台となる声明ですが、主はそれをご自分で宣言されませんでした。ペテロが自分で告白しました。イエス様は、ペテロが父から直接教えられることを、一連の質問をすることを通して助けられたのです。

天外内トレーニングでは、質問表を用いてリーダーをコーチするように指導しています。天、外、内の3つの領域を縦軸に、それぞれの領域の3つの時制(過去・現在・未来)を横軸に取る9つの質問群が、上下2セットあります。合計18です。

上段の9つの質問内容は、被育成者自身のことをカバーし、下段の9つの質問内容は、被育成者がリードしている宣教チーム、教会、ムーブメントをカバーしています。被育成者が質問に順々に答えることで、育成者とともに、神の前で敬天愛人を実践しているかどうかを自分で点検することができるように設計されています。

過去 現在 未来
天:個人 先週、神様は聖書を通して、どんなことを語ってくださいましたか? 神様が一緒におられるなあ、と思う時は、どんなときですか? 神様はあなたとの関係をどのように深めようとしておられるでしょう?
外:個人 先週、誰にどのように福音を伝えましたか? 未信者の人で、あなたが仕えるべき人は誰でしょう。どう仕えますか? 家族や友人が救われるために、具体的にどんな事ができるでしょう?
内:個人 一週間を振り返ってみて、悔い改めるべき事があるでしょうか? キリストの姿に変えられるために、今取り組んでいる事がありますか? 身近な信者に対して、愛を現すために、どんな選択肢があるでしょう?
過去 現在 未来
天:教会 人々が神との一対一の関係を持つために、どんな助けをしてきましたか? 教会の皆さんは、デボーションやアカウンタブルな関係をもっていますか? 教会の皆さんが、喜んで神に聞き従うための次のステップは何でしょう?
外:教会 先月、あなたのネットワークで救われたきた人の話をしてください。 関係作りのスキルアップのために、人々をどのように訓練していますか? 新しい教会をスタートさせるために、必要な事はなんでしょう?
内:教会 宣教チームが一致するために、妨げとなってきたものは何でしょう? 人々が、高い品性を持つ事に熱心になるために、今何ができるでしょう? 主は、チームの関係がどのようになる事を望んでおられるでしょう?

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