その14 共同体を変革する

教会を開拓する?

20年前、教会に小集団ダイナミクスを導入すべきだという主旨の論文を書きました。日常生活の中で個々人が経験した祝福や葛藤を小集団の中で分かちあうことによって教会が活性化されるからです。

ところが10年前、未信者の世界の中で新しく小集団を生み出す方が良いと気づきました。たとえ小集団ダイナミクスによって教会が活性化しても、ただ待っているだけでは、未信者の方々がそのような現実にアクセスする機会が限定されてしまうからです。

そこで、人々が教会に来ないのなら、教会が世界に出ていくという発想の転換をしました。「地に満ちよ」と命じられた人間創造のエピソード、バベルの塔の物語、イエス様の大宣教命令、ステパノ迫害後の異邦人宣教などの聖書記事は、集結ではなく分散の方向を示しています。

出かけて行って証ししだすと、宗教的なプログラムには関心を示さなかった人々が、キリスト中心の交わりが持つ豊かさに惹かれ、人間関係を通して福音が伝わるようになりました。派遣の使命を担う小集団が、生活の場でイエス様からいただいた愛を証しするようになったのです。副産物として、外向きのベクトルを持つことで、集団自体が健全化されるという仕組みもわかりました。

ところが、最近気づき始めたことは、私たちが小集団を、いわば「人工的に」形成する必要があるのかという点です。なぜなら、小集団はすでに世界に満ちているからです。少し大きめのレストランに行けば、人々がテーブルを囲みながら小集団を形成して生活していることが視覚的に理解できるでしょう。

世界に必要なのは、小集団ではなくてキリストなのです。

イエス様が派遣された2人組の弟子育成チームは、家から家へと伝道して周りませんでした。こちらの家から回心者を1人、別のグループから回心者を2人集めて、聖書研究会を始めるようなことはしませんでした。むしろ、弟子の到着以前にすでに存在していた自然な家族の交わりが、そのままキリスト中心の交わりへと変化していったのです。

イエス様は教会を開拓せよと言われたのではなく、神を愛し、隣人を愛しなさいと言われました。2人の弟子たちがもたらしたのは、「敬天愛人」という新しいライフスタイルだったのです。

そして「弟子とする」という言葉の意味は、単に個々人が敬天愛人に生きるようになるだけではありません。共同体内の家族や集団が、神の国の規範と価値観に則って関わり合い、さらには外の共同体とも同じ原則で関係を結ぶようになることです。換言すれば、自己犠牲の愛に貫かれたキリスト中心の共同体へと変えられていくことです。

政治、教育、メディア、芸術、娯楽、宗教、家族、ビジネスなどのあらゆる文化領域の中で唯一の神があがめられ、神のご支配が現わされ、共同体全体が正義と公正と愛を目指して成長していくことが、神のご計画なのです(ルカ4:18-19)。

 

共同体変革の4段階

共同体変革には、4つの段階があります。①準備、②証言、③育成、④退去です。外部から共同体にかかわる二人組の働き手の視点で、各段階について「天・外・内」の順番で説明しましょう。

 

[準備段階]

ドミノ倒しの起点であるとともに、相互扶助事業を担う平安の子や、平安の子がリーダーを務める小集団の成員と親しい友人関係を築きます。

「天」―アプローチすべき小集団を神に教えていただきます。

「外」―対象となる小集団に関わり始めます。特に異文化宣教においては、寝食を共にするような関わりが必要な場合があります。頻繁に会ったり一緒に仕事をしたりする間に、誰がその共同体のリーダーなのか、共同体のニーズは何か、対象集団が共同体変革に貢献するようになるためには何が必要か、問題を解決するための資源が共同体内部にあるか、などを調べます。この準備期間に、共同体のリーダーと良好な人間関係を築くことが必須の課題となります。共同体のリーダーが対象集団のリーダー、つまり平安の子である場合もあります。

「内」―2人組の働き手の生き様や、対象集団との交わりを通して、人々に仕える模範を示します。

 

[証言段階]

生き様や交わりを通して友人関係が深められたら、言葉や愛の行為を通して証しを始め、対象集団が平安を受け取るように祈ります。その対象集団がやがて弟子育成と相互扶助事業を担う中核集団へと成長していきます。

「天」―共同体リーダーへの友情伝道と中核集団の形成について、知恵と導きを受け取ります。また、いやしや奇跡を行なう権威を求めます。

「外」―共同体リーダーの話をよく聞き、人々のニーズを満たし、しるしや奇跡を行ない、平安を祈ることを通して、共同体に変革をもたらすための中核集団を形成します。

中核集団の成員の中で、福音を受け入れた人から順に弟子として育成し始めます。弟子育成は、相互扶助事業のための教育と並行して行ないます。

「内」―中核集団に対して、共同体全体に仕え、隣人に福音を伝える模範を示します。

 

[育成段階]

中核集団が弟子育成と相互扶助事業を自立的に展開するように援助します。

「天」―共同体が主体となって進める相互扶助事業についての導きを受け取ります。

「外」―共同体リーダーの承認を得ながら、中核集団の発案と主導権の下、共同体の中にすでにあるリソース(資源)を用いて相互扶助事業を展開します。

「内」―中核集団の成員が互いに愛しあうことができるように助けます。

 

[退去段階]

共同体内部の人脈の中で、弟子育成の連鎖反応が起こり始めると、2人組は共同体を去ります。平安の子を含む中核集団の主導権の下、自立的・自発的に福音と相互扶助事業が広がるためです。

「天」―中核集団が2人組に頼らずに「神とその恵みのことば」(使徒20・32)に直接結びつくように助けます。

「外」―2人組はそこを去り、次の任地に移ります。退去するのが遅くなるほど共同体の自立が妨げられ、2人組に依存するようになります。

「内」―中核集団に、「自分自身と群れの全体とに気を配」(使徒20・28)るようにと命じます。2人組が「謙遜の限りを尽くし、涙をもって」(使徒20・19)主と人々に仕えてきたなら、その命令には権威が伴います。

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