■福音は伝わっていますか(5) 祖先恭敬は親孝行

・タタリとオカゲ

前々回の記事で、日本人の時間観は「閉回路」、つまり、四季の移り変わりのように繰り返し循環するタイプだということを紹介しました。そのとき、日本人は人生もそのように「環」として考えているということも述べました。民俗学者たちは、この環には二つの起点があると言います。一つは誕生であり、もう一つは死です。この二つの起点によって、「成長過程」と「祖霊化過程」というの二種類のプロセスが分断されています。

誕生から死に至るプロセスを成長過程と呼び、死から誕生に至るプロセスを祖霊化過程と言います。死は肉体と魂の分離ですが、死亡直後は、肉体と魂が不分明で不安定な状態になります。魂が「祖霊」、つまり、家族または血縁集団に守護や恩恵を付与する先祖の霊となり、個性を失って安定期を迎えるに至るまでの「霊魂の安定化の過程」が祖霊化過程です。柳田國男によると、祖霊化した後は、生まれ変わって次の成長過程が始まるとされています。

このような霊魂観を支えてきた「家」が、現代では明確に存在しないので、あの世の存在や生まれ変わりを肯定する人は以前よりも減ってきていると思われます。しかし、まだ8割近くの人たちが先祖が見守ってくれていると答え、6割の人が霊魂の存在も肯定しています。また、「友引にお葬式をしたら、縁起が悪い」という俗信を気にする人は6割近く、「お葬式に参列したら、自宅玄関や身体に清め塩をまく」人も過半数に達しています<http://www.circam.jp/reports/02/detail/id=5097>。

一方、「家」と離れたところで、スピリチュアル・ブームは百花繚乱の様相を呈しています。有本裕美子は、スピリチュアル・ビジネス市場は、2011年現在で、一兆円規模に達すると見られるとし、これは、ペット関連市場と同程度、化粧品市場の半分程度に該当する規模となっていると述べています<https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/16845/1/kyoyodezainkenkyu_6_57.pdf>。

心霊と交流できる特殊能力者による仲介儀礼や、パワースポットを巡る旅行、アロマテラピーのような療法や音楽、運を引き寄せ厄を除くとされるパワーストーンの購入などを通して、霊的世界から心の平安、癒し、救済、気づき、学びを得ようとする人々は多くいます。

しかしそれでも、日本のスピリチュアル・ブームは、先祖祭祀や死者の魂の実在に重点を置いているので、結局、ご先祖さまを大切にしたり墓参りすることが、占いや霊視の答えとして提示されるということが多いのです。