ヴィジョン・ステートメント
2010年10月9日(土)から11日(月)まで、兵庫県三田市で、スイスにある使徒的ネットワークのリーダーであるマルコ・グミュール(Marco Gmür )さんと奥様の スザンヌ(Susanne)さんを迎えて集会を開きました。
マルコさんとスザンヌさんは、霊的な子どもたちを育てたり、使徒的ネットワークを開拓したりしてきたご自分の経験から、現場で戦っている私たちに実践的なアドバイスを与えてくださいました。今年1月と6月に来日したフィル・ライさんや、8月に来日したヴォルフガング・ジムソンさんの教えを補完したり、整理したり、適用したりするために、非常に有益な時間でした。
以下、マルコさんとスザンヌさんが話してくださったことを、私のコメント付きで紹介します。
1 教会が結ぶ7つの関係
教会が結ぶ関係は7種類に分類することができると、マルコさんは整理して考えています。天外内は、そのうちの4つを含んでいます。マルコさんが提示した順番で説明しましょう。まず、第1の関係は、神との関係、つまり「天」との関係です。聖霊を与えてくださった神に向かって、私たちが自分自身を日々捧げるという関係です。
第2の関係は、ハウスチャーチの内側の信者同士が互いに愛し合う交わりです。これは、天外内の「内」にあたります。第3と第4の関係は、世界との関係、つまり天外内の「外」に相当しますが、マルコさんは、第3を個人的な伝道の関係、第4を個人を超えた大きな単位であるコミュニティとの関係としています。個人に対してもコミュニティに対しても、ハウスチャーチは福音を伝え、そのことを通して新しい弟子を獲得するようになります。
今年8月に来日したジムソンさんは、この第4の関係について、私たちの目を開いてくださいました。天外内トレーニングは、普通のクリスチャンが、日常生活の中で、自分の家族や友人に仕えたり、福音を伝えたりするところに強調点がありました。しかし、ジムソンさんは、文化を管理するという大きな視点を紹介してくださいました。そこには、政治、経済、文化、家族、宗教、コミュニケーションなどの分野があります。
第5の関係は、海外宣教です。この領域も、私たちは今ある程度取り組んでいますが、今後は、さらに多くの日本人宣教師が派遣されていくようになるでしょう。
第6は、「キリストのからだ」との関係です。スイスのように伝統的な教会が文化の中に根を下ろしている所とは、接触面の大きさが違いますが、日本でもハウスチャーチの影響力が増していくにつれて、取り組まなければならない課題です。ハウスチャーチ以外の「キリストのからだ」には、大きく分類すると、伝統的な教会と「脱教会集団」(Unchurched)と呼ばれている人たちがいます。脱教会集団は、現在世界でもっとも大きなクリスチャンのグループとなっています。ハウスチャーチは、伝統的教会と脱教会集団に対して、神のビジョンや啓示や預言をし、それに呼応する訓練された若い働き人を育てるようになります。
そして、最後の第7の関係は、イスラエルとの関係です。イスラエルは全民族の長子です。私たち異邦人は、その歴史や文化から学ぶ必要があるとともに、エルサレムの平和のために祈るようにと命じられています。そのことによって、ハウスチャーチも祝福を得ます。
これらの7つの関係をすべてカバーしている人はいません。しかし、このような7つの領域があることを知ることで、自分がどの部分を任されているのかを知ったり、今後の展開を考えたり、他の働き人の活動を評価したりするために役に立ちます。地図の上に引かれた基盤目があると、ある町を他の町との関係から考えたり、全体から見るとどのあたりに位置しているかということを理解しやすくなります。この「7つの関係」は、教会の働きを包括的に理解するために役立つ道具だと思いました。
「バック・トゥー・エルサレム」の視点から、この7つの関係を見ると、日本からエルサレムに向かって続く道の上に、これらの7種類の関係を整理しなおすことが可能だと思います。まず、「地の果て」にいる私たちが神との関係を回復させられ、自分のオイコス(身近な人間関係)の弟子化から、日本文化の変革、さらには、海外宣教、そして、ついにエルサレムに至るというプロセスです。ただ、これは、必ずしも順番に起こると考える必要はありません。使徒的な父親の役割の一つは、ムーブメントを評価して、包括的な展望を与えることだと、マルコさんはおっしゃっていました。
2 5職と長老+執事
エペソ4章11ー13節に、「キリストご自身が、ある人を使徒、ある人を預言者、ある人を伝道者、ある人を牧師また教師として、お立てになったのです。それは、聖徒たちを整えて奉仕の働きをさせ、キリストのからだを建て上げるためであり、ついに、私たちがみな、信仰の一致と神の御子に関する知識の一致とに達し、完全におとなになって、キリストの満ち満ちた身たけにまで達するためです。」と記されています。
ここに出てくる、使徒、預言者、伝道者、牧師、教師は、「使徒五職」とか「使徒的チーム」などと呼ばれる「巡回する働き人」です。これらの働き人以外に、長老がいます。「教会ごとに長老たちを選び、断食をして祈って後、彼らをその信じていた主にゆだねた。」(使徒14章23節)とあるように、長老たちは、使徒たちによって任命され、宣教地に留まって新しい群れを指導する者たちです。その他に執事たちがいます。第1テモテ3章には、パウロがテモテに対して執事たちを任命する基準を示しています。執事も長老と一緒に、地域に根を下ろして諸教会で仕えていました。
マルコさんは、これらの7種類の働き人は、皆「霊的な父親」だと理解しています。これらの働き人が組み合わされて、「キリストのからだ」を建て上げられるのですが、それを、ビジネスや社会事業や金融やスポーツなどの様々なプロジェクトにも当てはめることができます。これは、アラン・ヒルシュというミッション・ストラテジストの理論を展開したものですが、とても刺激的で実践的でした。
使徒は、遣わされてビジョンを示し、働きの土台を作る者。預言者は、ニーズを見分け、商品を開発し、人事に携わる者。伝道者は、人をリクルートし、結びつけ、働きを拡大する者。牧師は、コンサルタントとして人々のニーズを満たしたり、ピースメーカーとして緊張を緩和する役割を担う者。教師は、調査したり研究したりして、全体像を説明し、新入者を教育する者。長老と執事は、責任範囲が長老の方が大きいという違いがありますが、両者とも、食事や寝る場所を提供し、人々がリラックスできる環境を整えるためにリーダーシップを発揮し、群れを管理する者、という具合です。このような聖書のモデルを、世俗の分野に当てはめて、コンサルティングするような働きが、今後日本でも起こってくるかもしれません。
また、教会を、平安の子の家族の拡張として考え、家族が氏族に、氏族が部族になっていくというムーブメント成長の各段階を、使徒と預言者のチームが、その他の5種類の働き人と組み合わされて、どのように実際的に助けていくかという具体的な事例を示していただきました。そのことにより、日本のハウスチャーチムーブメントがどのように成長していくか、というイメージを持つことができました。
たとえば、伝道者はピリポのように無差別に伝道して大きな成果を挙げますが、使徒や預言者は、新しく救われた人たちの中から平安の子を狙い撃ちして育て始めます。そして、その人々を長老や執事や牧師や教師に手渡していきます。使徒や預言者は、やがて家族が氏族に、そして氏族が部族になっていく流れの中を、流れて通り過ぎていきますが、その過程で、長老や執事に権能委譲していきます。5職の働き人にとっては、当然のことながら、育成が中心的な働きだということになります。
3 増殖において明確化すべき5つのポイント
ムーブメントが始まった最初の段階から、理想像、任務、価値観、関与、機能の5つが明確化されていないと、早晩分裂が起こると、マルコさんは言いました。そして、理想像と任務は明文化している必要がある、とのこと。私たちはどうでしょうか。私たちの場合は、神様は、まず価値観の共有から始めてくださったと思います。
価値観は、8つのイメージで表されました。第1に収穫です。来るべき大収穫に備えて働き人を整えることが、最初に共有された価値観でした。第2に、郵便配達人。神の声を聞いて、それを隣人に届けるメッセンジャーです。第3に、バトン。働き人が次々に育てられていくことを目指します。第4に、いやし。いやし、悪霊からの解放、奇跡、知識の言葉、預言などは、私たちの働きの重要な部分です。第5は、シンプル。神の声を聞き、隣人を愛し、自我に死ぬというシンプルさが増殖の条件です。第6は、畑。神が耕せと言われた畑を忠実に耕すこと。第7は、歌。互いをリスペクトし、コアなファンになるグループが、ムーブメントの発動機の役割を果たします。第8は、愛です。愛が動機であり、愛が土台となって立ち上がり、愛によって結び合わされ、愛によって完成されていきます。
これらの価値観の中から、今年1月に、4つの行動計画が策定されました。それは、定期的な交わり、定期的なトレーニング、預言といやしについて習熟すること、そして、ムーブメントのためのインフラの整備です。これらは、神の恵みの中で、ある程度実行させていただけたのかな、と思います。交わりは深められ、定期的に各地でトレーニングセミナーが開かれました。預言といやしについては、フィルさんの貢献が大きいと思いますが、半年前とは格段に違うレベルに引き上げられたと思います。インフラとしては、書籍の発行と3つのローカルトレーナーチームが組織されたことが挙げられます。
では、私たちが次に取り組むことは何でしょうか。それは、共通の理想像を持つことだと思います。理想像というのは、たとえば、NHKで現在放映中の『龍馬伝』の中で、主人公が「この日本を誰もが笑おうて暮せる国にしたい。」と何度も繰り返して言いますが、そういう短い言葉のことです。この言葉を聞いた人たちは、心動かされ、夢を見、自分の役割を見つけて、龍馬に協力していきました。この共通の理想像があれば、なすべき任務もはっきりしてくるでしょう。さらに、自分がその理想像の実現のために、どう関与し、実際に役割を果たしていくのかも、各自が導かれていくはずです。「幻がなければ、民はほしいままにふるまう。」(箴言29章18節)のです。
福田充男
2010年11月5日