■「紀元一世紀の教会出席」を通して紀元二十一世紀の教会を考える(1)

紹介文
現在ほど変化の速い時代はない、と言われています。そのスピードは、減速するどころか、様々な技術の進歩によって刻々と加速しています。それらの変化に対する善し悪しの判断や、変化への対応の仕方に違いこそあれ、私たちはみな変化に対応せざるをえません。

私たち日本人にとって2019年は、元号が変わるという変化にも対応する年になります。「平成」という時代に色々な意味で区切りをつけ、新しい時代に入っていくという変化です。これらの変化は、私たちキリスト者の生活にも否応なく訪れています。加速度的変化の中でどのように、永遠に変わることのない神さまを愛し、私たちと同じように変化のただ中にある隣人を愛するように、私たちは召されているのでしょうか。

変化への対応は、本質的な事柄を考える機会でもあると言えます。何を、なぜ、どのように、変えるのか、そして変えないのか、それらを考えることが、私たちの思いを本質的な事柄に向かわせます。そのような意味において、今ほど信仰の本質を考える絶好の機会はないでしょう。

このシリーズでは、2000年以上前の教会出席を描いた小冊子「紀元一世紀の教会出席」(RACネットワークサイトにて無料公開中)から、教会の本質を再考し、現在の日本の教会に対する示唆を得たいと思います。


初回となる今回は、なぜ「紀元一世紀の教会出席」という小冊子を用いて、教会の本質や今日の教会について考えようとしているのか、について取り上げます。

はじめに、「紀元一世紀の教会出席」とその著者の紹介をいたしましょう。この小冊子は、オーストラリア出身の教師、ロバート・J・バンクス(1939~)によって書かれました。バンクスはシドニーで生まれ、イギリスで博士号を取得した後、英国国教会(イギリス連邦以外の国では聖公会)の教職者としてアデレード市の教会に赴任します。しかし、教職者と信徒に対する見方、聖餐式に対する理解、教会組織運営上の奉仕にのみ信徒の奉仕を集中する傾向など、英国国教会の立場に問題を感じ、英国国教会を脱退します。英国国教会聖職者としての牧師の職を退き、歴史を専門とする研究者としてオーストラリアの大学で教鞭を執り始めます。同時にハウスチャーチを推進する運動に関わるようになります。それに伴って、ハウスチャーチやリーダーシップに関する著書を出版、記事を発表し始めます。そのような中、米国カリフォルニア州にあるフラー神学校より、初の「信徒によるミニストリー」担当教授として招聘されます。その後、オーストラリアに戻り、オーストラリアをはじめとして、東南アジアなどでも教鞭を執るようになります。

バンクスの著書は研究と実践から生み出された専門書ばかりですが、「紀元一世紀の教会出席」は、1990年に出版された唯一のフィクションです。しかし、序文にバンクス自身が説明していますが、著者の想像による作り話ではありません。「史実」に基づいたフィクションというべきでしょう。「史実」というのは、この物語の場面設定が、歴史上に存在したパウロの同労者であったアクラとプリスキラ夫妻の導く「家の教会」であるからです。

アクラとプリスキラ夫妻について聖書にそれほど多くの記述はありませんが、パウロとの出会いとアポロとの関わりから、この物語の土台となっている「家の教会」を導く二人について考察してみましょう。