■御国の民とイノベーション

紹介文
世界には様々な発展課題があるが、近年、これまでとは違ったアプローチによる新しい解決方法が数多く生まれている。それらの特徴は、地球環境に負荷を与えず、地球のエコシステムの営みの中に解決のヒントを見出していることであり、これは新しい潮流となっている。この地球の創造主である神を信じるクリスチャンたちは、このような時代における新しい解決づくりに大きな役割を果たす存在となれるのではなかろうか。


『えひめAI(アイ)』というものをご存知だろうか? 愛媛県の農業技術研究所が開発した、納豆菌、イースト菌、乳酸菌を一定の割合で培養した溶液だ。これをスプレーすると、人体に有害なポストハーベスト農薬を使うことなく、ジャガイモや玉ねぎなどの傷みやすい野菜を腐らせずに長期間保存できる。製造法が無料公開され、農家を中心に広がり始めている。同様のものがワインの搾りかすからできることもわかり、米国でも農産物に使用され始めた。

家畜が排泄するたくさんの糞を、品種改良したウジ虫に餌として与えることで分解して、これを6日間で堆肥に変える、一方成長したウジ虫はそのまま安く栄養価の高い飼料にする、という事業についてはお聞き及びだろうか? 畜産業における糞の処理能力不足は肉の需要の高まりを受けて世界中で大きな問題になっていたのだが、それに解決以上の答えをもたらしたビジネスで、福岡の株式会社ムスカが今秋から開始する。プラントを建築しても10年以内に資金回収できるほどコストは低い

『自己修復するコンクリート』という驚きの製品も、この春に販売開始となった。乾燥状態で休眠する微生物をカルシウムカプセルに閉じ込めてコンクリートに混ぜておくのだが、経年劣化によってコンクリートにヒビが入った時、侵入する水分で目覚めてカプセルを食べ、炭酸カルシウムを短時間で生成するのでヒビが埋まるのだ。2ミリほどなら2週間で修復できてしまう。コンクリートを使った建築物の経年劣化問題を大幅に改善できるだろう。

世界のどこにでもある石灰岩を主原料にした紙が使われ始めたことは、お聞きになったことがあるのではなかろうか? 木を切る必要も無く、水もほとんど使わずに作ることができるため、水の少ない国々の政府に積極的に採用されている。『LIMEX』という素材なのだが、これは生分解性プラスチックにもなる。

さらに最近、数秒の充電で数時間電気を流すことができる、炭素原子のシートでできた蓄電池が開発された。茨城県つくば市にある物質・材料研究所で開発され、現在は協力企業と共に具体的な汎用製品化への取り組みが始まっている。もうリチウムのようなレアメタルを奪い合う必要は無いし、原材料コストは驚くほど安くなる。

これらはすべて、社会が抱える問題や不便さを解決するために生まれた、最近のイノベーションの一例だ。共通する特徴は、すでに自然の中に広く存在している生き物や材料を利用していることだ。だから汎用性が高く、自然や地球環境にほとんどダメージを与えず、コストが安く、発展途上国でも容易に取り入れることができる。

さて、これらのイノベーションについてさらに注目してほしい点は、従来の問題解決アプローチと比べて、基本的な考え方が大きく異なっているということだ。

例えばこれまでは、有害な菌で困ったら殺菌剤で消毒、糞の処理なら焼却、オオカミが家畜を襲ったら殺戮、紙が必要になったら森林を伐採、というような解決手段を取ってきた。生じた課題を個別に分離して単純にとらえ、足し算引き算のように直線的な考え方で何とかしようとしたわけだ。

しかし、この世界は単純系ではなく複雑系だ。無数の「目に見える要素」と「目に見えない要素」が複雑に作用しあい、バランスをとりながら成立している、巨大なエコシステムだ。

だから、前記のような単純化された理解に基づく直線的な思考から生まれた解決法で問題に対処しようとすると、不十分であるだけでなく、あちこちに副作用が生じて、新たな問題を引き起こす。たとえば上記の例について言えば、耐性菌の誕生、膨大な燃料コスト、別の害獣の異常繁殖などだ。

現代社会の住人である我々は、このことに特に問題を感じなくなっていた。「科学技術は自然環境と調和しづらいもの」というイメージも当たり前だったし、人間が便利さを手に入れたり課題を解決したりする裏には犠牲や無理が生じても仕方がないという、暗黙のあきらめも無意識のうちに共有していたように思う。

しかし、上記のイノベーションを実現した人々は、そうは考えなかった。彼らはむしろ最初から、便利さの獲得と地球のエコシステムは矛盾なく実現できると思っていたかのように新しい解決を生み出した。さらに進めた言い方をすると、自然の営み自体の中に不便さや社会課題を解決するためのカギを探す視点を持っていたのだ。

なぜ彼らがこのように発想することができたのかは分からない。しかし、私は勝手にこう解釈している。これは、千年王国へ続く今の時代への特別な恵みとして、神がご自分の創造された地球のシステムと調和する発想を人類に与え始めておられるからではないか、と。

実際、大気汚染やプラスチックごみ問題など、発展による犠牲が他人事でなくなってきた近年、世界のリーダーたちも、発展のための新たな考え方の基盤を作り共有する必要を確信し、2015年には国連でSDGsという合意に至った。これは「持続可能な開発目標」の頭文字をとったものだが、そのメッセージを一言で表現すると「経済も環境も社会も、すべて統合させて調和を図ろう」ということになる。

これが世界的合意になったことは驚きで、背後に様々な思惑もあるだろうが、それでもとても素晴らしいことだと思う。そして同時に私が思うのは、本来ならばクリスチャンたちこそが、このような考え方で世界が抱える様々な課題の解決に向けてイニシアチブを取っていくべき人々ではないかということだ。

我々は、創造主なる神が時間を超越した方であり、知恵に満ちたお方であることを知っている。そして、神がそのようなお方ならば、人類が直面するであろう問題について、自業自得の問題にしろそうでない問題にしろ、当然前もってご存知だったはずだ。ならば、その問題に対する解決の種も神が前もって備え、この地球の様々な営みの中にそれを組み込んでくださっているはずだし、我々はそれを見つけられるはずだ。「耕し、守れ」という主の命令を私たちが守れるようにしてくださっているはずだからだ。また、この命令ゆえに、我々こそ、神がお創りになったこの地球を大切にしたいという願いを最も強く持つ人々であるはずだ。

キリストのからだなる教会は、このように信じ考えて、世界にもっと関心を向けると良いのではないだろうか。そして、神が創造して「良い」と宣言された自然の営みを丁寧に観察し、問題解決の種を見つけ、具体的な方法を構築することに向かうべきではないだろうか。

地球環境と科学技術や便利さが矛盾しない世界を作っていくことは、キリストと共に地を治めるようになるクリスチャンたちの大切な務めのひとつだと私は考えている。またこのように神の愛を表すことは、この終わりの時代の人々が神に希望を見出し、神に立ち返るための、重要な土台作りにもなることだと思っている。あなたはどう思われるだろうか。

TORU

【RAC通信】 – 2019.09.03号  TORU