■神の民の機能不全

紹介文
神が立てられたパロの夢をヨセフが解き明かしたように、現代の日本にもヨセフのように王の友としての役割を果たす人が必要です。ヨセフ型の仲介者が存在していたら、東北被災地の防潮堤建設にかかわる政策判断は現状とは違ったものになっていた可能性があります。このままでは、将来の町づくりの足かせになりかねません。

これまで、神の支配が、日本の政治や経済や行政や教育に十分に反映されてきたとはとても思えません。神はいつも真実な方で、地域や国にとって最善を計画しておられるのですが、その計画を実行すべき神の民が機能不全になっているのです。よく聞くことができる耳と素直な心を与えていただけるようにと祈っています。


・防潮堤建設の謎

3.11当時に避難場所となっていた南三陸町立戸倉中学校の校庭に立って志津川湾を見下ろすと、建築途中の8.6メートルの防潮堤建設現場が目に入ります。海抜17メートルの校庭でさえ、8年前の津波では安全ではなかったのに、8メートルという低い防潮堤を作っているのはなぜでしょう。

私たちが立っていた校庭よりも3メートル上に立つ校舎の1階部分の上部、つまり校庭よりも5メートル上の22メートルのところまで津波が到達しました。そのため、避難してきた車は津波に流され、中学生1人と教師2名の命を奪いました。その校庭からはるか下に見下ろす位置に防潮堤を作ることに何の意味があるのでしょうか。

・町づくりの足かせ

防潮堤の設置は、再来する可能性のある同規模の津波を防ぐことができないだけでなく、少なくとも3つの意味で、将来の町づくりの足かせとなる可能性があります。

第1に、山と海に囲まれた地形が有する自然の水循環を妨げてしまいます。南三陸の町境は全て分水嶺となっていて、町の外から川の水が流れて来ることはありません。「やませ」と呼ばれる、春から秋にオホーツク海気団から吹く冷たく湿った北東風が霧となって山に降り、水源を形成します。町に降った霧や雨は、全て町内の山や大地を通り、川を通じて里に流れます。

ここで大切なのは、川だけでなく、さまざまな地下水脈を通って海に帰るという点です。防潮堤はその水を塞きとめるので、生態系の循環を止めてしまう可能性があります。巨大なコンクリート構造物が、地域の財産である自然環境の喪失をもたらすのです。東北3県だけで総延長約370km、約8200億円を使って、東日本太平洋沿岸の自然海浜を潰してしまってよいのでしょうか。

第2に、高い防潮堤を作ることで、それに合わせて河川堤防もまた高くする必要があります。そうすると、次に津波が来るときには、津波のエネルギーが河口付近に集中することとなり、川上の後背地まで津波の侵入を許すことになります。

第3に、防潮堤建設による水産資源への悪影響が懸念されます。建設工事に伴う水質汚濁により、沿岸水産資源に悪影響が出ていると報告されています。水産資源を活用した事業は、今後も経済活動の柱となると考えられることから、海洋環境の変化による水産資源へのダメージは復旧の命取りになる可能性があります。

安全にはなっても、基幹産業が成り立たなくなるようなら、人口減少がさらに進み、「誰もいない地域をコンクリートが守る」という、まるでジョークのようなことが起こりかねません。なぜ、このような失政が行われてしまったのでしょう。大きな要因の一つは、日本の神の民が沈黙していたからだと考えられます。

・王の友であるヨセフの役割

ヨセフが、異邦の王国のためにどのように用いられたか、ということが日本の神の民の活動を考える上で参考になります。当時エジプトは、唯一の超大国だったのですが、国家存続の危機に面していました。ところが、パロも家臣たちも、大飢饉の前夜であることにさえ気づいていませんでした。

それでも神は、世界の支配者として選んでおられたパロだけには、夢を見せることを通して、彼の帝国に起こることを予め知らせて警告し、危機に備えて対策を取るようにと促されました。パロが神からの夢の解き明かしを求めたのは、神に動かされてそうしたのだと思います。

エジプトと当時エジプトが支配していた全世界の人々が飢え死にしてしまわないためには、神によってパロに与えられた夢を正しく解釈する「もう一人の遣わされた者」を待たなければなりませんでした。その者は、世界を創造し、歴史を主宰しておられる神の栄誉を示しました。パロと魔術師との組み合わせでは、天地を作らなかった偽物の神々が崇められてしまいます。

神のご計画と知恵と力を代表する真正な神の民が、夢に込められた神の意志を示すことで、神はご自身の名を聖別しようとなさいました。その時に用いられたのが、刑務所に収監されていたヨセフでした。ヨセフは、14年先までの世界のトレンドと、それに対応するための具体的な対策を語りました。

その解き明かしを聞いたパロは感心して家臣たちに言いました。「神の霊の宿っているこのような人を、ほかに見つけることができようか。」そして、ヨセフに向かって言いました。「神がこれらすべてのことをあなたに知らされたのであれば、あなたのように、さとくて知恵のある者はほかにいない。あなたは私の家を治めてくれ。私の民はみな、あなたの命令に従おう。私があなたにまさっているのは王位だけだ。」(創世記41:39, 40)

パロには、真の神由来の権威を正しく行使することが求められました。そして、正しい権威行使の条件は従順です。神は神とのチャンネルを持つヨセフを用いて、神の心を示し、パロがヨセフを通して神に服従するようにされたのです。

たとえリーダーが直接神と会話できなくても、ヨセフがパロに神の知恵を伝えたように、神の民が神の心をリーダーたちに伝えることで、その国だけでなく世界に救いがもたらされます。現代の日本でも、ヨセフ型の仲介が必要です。ヨセフのように王の友としての役割を果たす人はどこにいるでしょうか。

・神の民の機能不全

平成の時代には、経済の停滞、政府債務の増大、少子高齢化、外交政策不適合などの失政により、多くの領域で、次世代に負債が先送りされることになってしまいました。東北被災地の防潮堤一つとっても、真に住民のためではなく、一部の権益者の利得や地位保全のために近視眼的な対策が打たれた疑いがあります。

このような国の歩みを振り返るときに、神の支配が政治や経済や行政や教育に十分に反映されてきたとはとても思えません。神はいつも真実な方で、地域や国にとっての最善を計画しておられるのですが、その計画を実行すべき神の民が機能不全になっているのです。

「わが軍は、未だに負け続けている。」南三陸から仙台に向かう車の中で、思わず言葉に出してしまいました。すると、悔しくて、申し訳なくて、涙がこぼれました。このまま、こんな状態のまま、前線を退くことはできない。司令官に顔向けができない。

津波と地震と原発という三重の災害を受けた人たちが、復興する過程で、失政によって二次災害を受けているような現状を見て、心が引き裂かれました。あとどのくらい、戦場に留まることができるかは司令官次第ですが、その間に、せめて次世代のために準備しておかなければ…。

まずは、一矢報い、将来の反転攻勢の足がかりを作っていきたいと思います。よく聞くことができる耳と素直な心を与えていただけるようにと祈っています。「かたくなで、心と耳とに割礼を受けていない人たち。あなたがたは、先祖たちと同様に、いつも聖霊に逆らっているのです」(使徒7:51)などと言われないようにしたいのです。

福田充男

RAC通信プラス】 – 2019.10.15号…【有料版】第209号 福田充男